2021/03/29
試合レポート
■グリーンロケッツ、パナソニックに敗れて、瀧澤直のトップリーグ出場100キャップ記念試合を飾れず!
■試合ハイライト(J SPORTS YouTubeチャンネル)
トップリーグとしての最後のシーズンに、NECグリーンロケッツのPR瀧澤直が、28日のパナソニック ワイルドナイツ戦で通算100キャップ――つまり、公式戦100試合出場を達成した。
初出場となったのは、2011年10月29日の神戸製鋼コベルコスティーラーズ戦。そのときグリーンロケッツのキャプテンを務めていたのは、先日、日野レッドドルフィンズで100キャップ表彰を受けたニリ・ラトゥだった。時の流れを感じさせるエピソードだが、瀧澤は、この試合にこんな気持ちで臨んでいた。
「100キャップのなかにはパナソニックとの対戦が何試合も含まれていますが、僕はまだパナソニックに勝ったことがない。だから、記念試合で勝てればそれ以上にいいことはない――そう思っていました」

しかし、結果は厳しかった。
現在まで全勝で首位を走るパナソニックと、まだ勝ち星を挙げることができずにいるグリーンロケッツとの、勢いの差をそのまま現わしたようにスコアは5―62。
後半の勝負所で次々とトライを奪われるなど、いいところなく敗れた。
だから、瀧澤は、こう言葉を続けるのだ。
「でも、ラグビーはそんなに甘くなかった。勝ちたい気持ちは、100キャップの記念試合だからというわけではなく、それが99キャップ目の試合でも、初キャップの試合でも、3キャップ目の試合でもまったく変わりません。いつも勝ちたいと思っているし、勝つつもりで準備をして臨むのですが、自分たちの実力以上のことが、そう簡単に出るわけでもない。今は、この試合の反省をしっかりやらなければいけないと思います」
反省点は多々あるが、なかでも大きかったのは、調子の良いチームから勝利を狙う際の鉄則「数少ないチャンスを有効にスコアに結びつける」が、できなかったことだろう。
試合直前にSOアレックス・グッドが負傷してメンバーから外れ、急遽、亀山宏大が10番を背負うスタートとなったにもかかわらず、前半は、ときにパナソニックからボールを奪い、脅かすチャンスはあった。しかし、そこでスコアできなかったことでパナソニックに余裕が生まれ、それがゲームのさまざまな局面での違いを生んだのだ。
瀧澤が言う。
「パナソニックは確かに強いチームですが、ミスもするし、人間離れした強さを持っているわけでもない。ただ、ミスをしたところで、パナソニックはしっかりとリカバリーした。一方、ウチはミスが失点に結びつく場面が多かった。ミスに対するリカバリーに差がありました。これは、技術的な部分も原因かもしれませんが、1人ひとりのマインドセット(心構え)も少し違っていたのかもしれません」

試合は、パナソニックがキックオフを直接タッチラインの外に蹴り出すミスで始まった。
最初のプレーは、ハーフウェイライン中央のマイボールスクラム。願ってもないアタックチャンスだ。
しかし、フロントロー同士がお互いに相手の手の内を探り合う過程でスクラムが崩れ、グリーンロケッツが反則をとられた。
パナソニックは、続くラインアウトからエースのWTB福岡堅樹を走らせるが、グリーンロケッツも、WTB高平祐輝、CTBマリティノ・ネマニが良く戻ってタッチラインに押し出してトライを防ぐ。
ここからの数分間は、瀧澤が指摘したように、双方にミスが出てめまぐるしくボールの所有権が移り変わった。
4分過ぎにはネマニがジャッカルに入ってパナソニックから反則を誘い、5分過ぎには瀧澤がタックルしながら腕力でボールをもぎ取るなど、反撃の糸口をつかもうとしたのだ。そのときに、バックスを使うことができればチャンスがさらに広がったかもしれなかったが、結果はSH中嶋大希が地域をとるためのキックを蹴らざるを得なかった。
中嶋が言う。
「攻めたい気持ちはあったのですが、アタックのセットが遅かったり、相手のディフェンスに捕まってリズムをつかめなかったり……と、ターンオーバーをチャンスにつなげることができなかった。原因は、アタックの方向で意思疎通ができていなかったり、FWが相手にコンタクトしてもいい形で押し込めず、次のブレイクダウンでスローダウンさせられたことなどです。だから、キックを蹴らざるを得ない状況に追い込まれた。いい形のアタックが続くなかで蹴るキックと、アタックを止められて蹴るキックでは、自然と質も違ってきます。結果的に、苦しまぎれのキックで相手にボールを渡すことになってしまいました」

ボールを持つ時間は、立ち上がりの10分間に限ればそれほど大きな差はなかった。それにもかかわらず、パナソニックはずっとグリーンロケッツの陣内でゲームを進め、逆にグリーンロケッツは自陣からなかなか脱出できなかった。
それでも、まだチャンスの芽は残っていた。
11分に先制トライを奪われたものの、13分過ぎに亀山が相手のキックを見事にキャッチ。そのまま左タッチライン沿いの狭いスペースを、FBアンドリュー・ケラウェー→WTB宮島裕之とつないで、宮島がラインギリギリで内側のCTBベンハード・ヤンセ・ヴァン・レンスバーグに返す。ベンハードはタックルを受けながらも、ボールを内側に残してアタックを継続しようとする。
そのときにタッチラインに触れたと判定されて相手ボールのラインアウトになったが、パナソニックのアタックを、ネマニがタックルを見舞うと同時にボールを奪って攻撃を継続する。
17分には、ラインアウトからフェイズを重ね、ネマニがパナソニック防御のギャップを大きく突破。ゴールラインに迫ったが、トライまであとわずかのところで倒され、続くラックで反則をとられた。
初めて訪れたビッグチャンスをものにすることはできなかったが、それでもネマニの動きがグリーンロケッツを鼓舞したのだ。

ネマニが言う。
「タッキーさんは、僕がチームに入ったときから、いつも近くにいてサポートしてくれた。だから、100キャップの記念試合は、彼のためにベストを尽くしたかった」
そんな気持ちが奮闘を支えていたのだ。
しかし、この場面については、こう悔やむ。
「防御にギャップが見えたから、そこに走り込んだら抜けました。でも……走って、抜けたら、パス――が鉄則。あそこはパスしても良かったかな」
その後も、双方に細かいミスが続いたが、グリーンロケッツの決定的なチャンスは、これが最後となる。ミスを着実に「リカバリー」してスコアに結びつけたのはパナソニックで、グリーンロケッツは、後半に入って48分に亀山がインターセプトからトライを返したのにとどまったのだ。
共同キャプテンを務める中嶋が言う。
「今のラグビーでは、たった1つの良いプレーでトライに結びつけるのは難しい。だから、必ずその次、さらに次へと良いプレーを重ねる必要があります。今週は、準備段階からそのようにポジティブなプレーを積み重ねるよう意識していましたが、重ねられなかった。それがとても悔しい」

奮闘したネマニも、細かいことを積み重ねることの大切さを強調する。
「毎週ハードワークを続けているのに、結果につながらないのは、フラストレーションが溜まるし、とても悔しい。結果を出すためには、まず1つひとつの局面で小さな勝利を積み重ねることが必要だと思う。たとえば、ゲインラインを巡るバトルに勝つ。相手の圧力に負けずにボールをキープする。そういうポジティブなことを、1つひとつ積み重ねて、試合を通して継続する。それが勢いを生み、トライにつながり、勝利につながっていく。僕たちがフォーカスすべきことは、そういう細かいことの積み重ねを継続することだと思います」
これで5連敗となったグリーンロケッツは、依然として勝ち点1のまま。
次節は、同じ秩父宮ラグビー場で、こちらも1勝を挙げたまま惜敗続きのリコーブラックラムズと対戦する(4月4日 13時キックオフ)。残る2試合で順位を上げるためには、絶対に負けられない相手だ。
浅野良太ヘッドコーチは、こう意気込みを語る。
「リコーもフィジカルを売りにしているチーム。フィジカルな戦いで勢い出して、それを80分間続けられるかどうか。それがカギを握ると思います」
これまでの積もりに積もったモヤモヤを一気に爆発させることができるかどうか。
グリーンロケッツの今季の命運は、そこにかかっている。


浅野良太HC

敗因は、自分たちで勢いを作ることができなかった。そこに尽きると思います。セットプレーで反則をとられたり、ミスで流れを作れるところで作れなかった。あとは、ブレイクダウンでも、勢いを消されてしまった。それがスコアに反映されています。
試合直前にアレックス・グッド(グッディ)がケガをしてメンバーが変りましたが、試合に出たメンバーは、それぞれ自分の役割は果たしてくれました。
SO亀山宏大のプレーには、今週準備してきたことを遂行しようという意志が見えました。彼は非常にゲームの理解度が高いし、グッディとは違うテンポでゲームを作れる。そういう良さが出ていました。キックをチャージされてトライを奪われましたが、仕事は果たしたと思います。
ティノ(マリティノ・ネマニ)は、準備のときから自分の役割をしっかり認識して取り組んでいました。彼は、昨季はバイスキャプテンでしたが、今季もアタックリーダーという形でチームに関わっています。だから、今日は、自分がチームにエナジー(活力)を与える番だ、という意識が高かった。それがプレーに現われていました。
次節のリコーブラックラムズは、フィジカルを売りにしているチーム。もう一度、我々が勝つために必要な勢いを出せるかどうか。それが勝敗を左右するでしょう。
フィジカルな戦いに勝って、リコーを相手に自分たちの勢いを続けられるかどうかが、勝負のカギを握ると思います。
中嶋大希共同キャプテン

今日は、自分たちがこれまでやってきたことを信じて臨みました。
グッディがいない状況も想定していましたし、不安は一切ありませんでした。試合のなかで手応えもありましたが、チャンスに良いプレーを続けることができず、チャンスを確実にものにできないところに課題が残りました。
具体的に言えば、試合のなかで良いプレーが1つあっても、その次にもう1つ良いプレーを続けて精神的に乗ることができない。毎試合ポジティブなプレーは必ずあるのですが、その次へと続けられないところが、課題だと思います。
今のラグビーでは、たった1つの良いプレーをトライまで結びつけるのは難しい。必ず次、その次と良いプレーを重ねる必要があります。今週は、準備段階から、そのようにポジティブなプレーを重ねることを意識しましたが、重ねられなかった。それが得点に結びつかなかった原因ですし、本当に悔しく思っています。
残り2試合は、いかに良いプレーをつなげていくかが、勝つための課題だと思います。
まだ精神的な波があって、今日はポジティブな状況が少なくて、ネガティブな状況が続いてしまいましたが、とにかく次節は、1つのチャンスに良いプレーを重ねて得点に結びつけること。個々のプレーの精度をはじめ、基礎的なところが大事になると思います。
(取材・文:永田洋光)