土佐誠選手、「ブルー」獲得記念インタビュー~「ブルーをとるために、やれることはすべてやりました」~
2009/12/24

英国オックスフォード大学に留学中の土佐誠選手が、12月10日にロンドン西郊のトゥイッケナム競技場で行われたオックスフォード大学とケンブリッジ大学の伝統の定期戦、第128回「バーシティ・マッチ」に出場し、英国で文武両道の象徴と言われる「ブルー」の称号を獲得した。
留学は来年6月まで続くが、大学の冬休みにより一時帰国した土佐選手に、バーシティ・マッチの印象や留学生活を語ってもらった。
■ 念願の「ブルー」獲得
試合は大接戦で、オックスフォード大学が最初にトライを重ねてリードしたのですが、後半にケンブリッジに逆転されました(27─31)。
僕は前半に出血交代で10分程度プレーしたのと、後半20分過ぎから途中出場で入ってプレーしただけでしたが、ピッチに立てば、ケンブリッジとの試合に出場した選手に与えられる「ブルー」の称号がもらえるので、当初からの目標を達成することができました。
観客はトゥイッケナムの3階席まであるスタンドの1階席が埋まった程度でしたが、ラインアウトのサインが聞こえないぐらいの大歓声で、雰囲気がとても良かったです。日本の大学選手権決勝に近い感じなのですが、学生サポーターの数が大学選手権よりも多くて声援が凄かったです。いいプレーには必ず拍手が起こるし、一つひとつのプレーに対するリアクションも的確でした。
僕は前半に出血交代で出場したときディフェンスで貢献できたのですが、出血していた選手が戻ってベンチに下がるときに、観客が「ナイス・ディフェンス」と声をかけて拍手をしてくれました。日本では、そこまでプレーに反応してくれることが少ないので、ちょっと驚きました。すごくラグビーを知っている人が多いと感じました。
■ オックスフォードのクラブ・ライフ
オックスフォードのクラブに入るまで、僕は関東学院大学とNECグリーンロケッツという恵まれた環境でラグビーをしていたので、ロッカーがグチャグチャに散らかっていたり、グラウンドがデコボコだったのには、正直言って驚きました(笑)。
でも、バーシティ・マッチが近づくに連れて、街の人の注目やメディアの関心が高まり、クラブの関連行事も増え、だんだん実感が湧きました。
試合の数日前には、キャプテンが出場メンバー22名を集めてスピーチをして、ワインで乾杯する儀式もありました。メンバーで正式なディナーを食べて、別室で小さなグラスに注がれたワインを持ってキャプテンの話を聞く。そして、最後にキャプテンが「みんなでケンブリッジを倒そう」と言ったときに、全員でその言葉を繰り返してワインを飲むのですが、そういった儀式や、キャンパスの前でメンバーだけで記念写真を撮ったりするたびに「すごいな」と感心しました。
メンバーに選ばれたことはキャプテンから直接告げられるのが伝統で、僕の場合はグラウンドで告げられました。その時点では先発なのか控えなのかは明かされなくて、あとで先発とリザーブの発表があったのですが、先発メンバーに選ばれなかったのはちょっと残念でした。
ラグビーでは、言葉の問題もあってコミュニケーションには苦労しました。
ミーティング中の戦略の話し合いや、試合のなかでの瞬時のコミュニケーションは、最初の頃はちょっと言葉に詰まることもありました。
自分から話すときには、アジア人独特の発音の癖がわかりづらいみたいなので、その点を注意していたのですが、とっさの場合はなかなか難しかったです。逆に話を聞くときには、わかる単語を拾って理解する感じでした。だから、まず相手の話をしっかり聞くことを心がけました。
みんながブルーを狙っているクラブですから、コミュニケーションが取れないと不利になるのではないかと思って、最初は焦りました。
僕のポジションには7人のプレーヤーがいて、当然ですが全員先発入りを狙っています。コミュニケーションにハンディがあることを見せたくなかったので、練習のときには、どんなことでも自分から積極的に取り組んで、みんなに明るく話しかけるようにしました。自分でできることはすべてやって、それでブルーが取れなかったらそれまでという気持ちでした。最後まで「絶対にブルーを取れる」という手応えはつかめませんでしたが、やれることは全部やった自信はありました。
プレーではタックルをアピールできたと思います。今シーズンのチームのテーマが低いタックルだったので、その点では得した感じがあります(笑)。

■ オックスフォードでの生活
学校生活は、クラスのほとんどがアジアからの留学生でした。日本人も6人いて、勉強ではいろいろサポートしてもらいました(笑)。みなさん、すごい高学歴の方ばかりなので、自分はまだまだだと思いました。
生活面では、チームの連絡事項が英語のメールで届きます。当たり前の話ですけど(笑)、これがけっこう大変でした。
ブルーのスコッドを選ぶ合宿に参加したあとでメンバー発表があったのですが、「発表はいつ」という連絡メールを最後まで読まずに関係ない文書だと思って削除してしまった。あとで「なんで来なかったんだ」とチームメイトに言われて初めて気がつきました(笑)。
グラウンドでのコミュニケーションはすべて英語だし、学校でも英語の勉強と英国の知識を学んでいる。だから部屋に帰って宿題を終えると、やっと英語から解放された……みたいな感じでホッとするのです。でも、ホッとしてメールをチェックすると、英語のメールがものすごい量で来ている(笑)。どうしてもパッと見て削除するみたいな感じになってしまいました(笑)。
■ 友人たち
友だちもたくさんできました。特に、チームメイトのデイビッド・ロジャース(HO)とティム・カトリン(WTB)が日本語を専攻していて、彼らとは仲良くなりました。
といっても、彼らも僕の英語と同じで、日本語を聞くことはなんとかできるのですが、上手く言葉が出てこなくて、結局英語で話していました。ただ、授業でわからないことがあったときに、「これはどういう意味?」と聞かれたことは何度かありました。
オックスフォードに留学したのは、ずっとラグビーを続けられるわけではないので勉強をするためと、ブルーの称号を得るためだったのですが、向こうに行ってヨーロッパの各国から来た人たちと触れ合ったり、友だちになってりして、自分にはまだまだいっぱい知らないことがあると気づかされました。それが大きな収穫でしたね。
ラグビーを離れて、イタリア人の友だちやスペイン人の友だちと話すと、話題がアートや建築様式の話になって、わからないことが多かった。そういうことを話す機会が僕らにはあまりなかったので、ロンドンに遊びに行ったときも、美術館に行ったのですが、彼らがこの絵は誰が描いたのかを説明してくれた。本当に自分が何も知らないことを痛感しました。

■ 英国のラグビー
オックスフォードのラグビーは、練習時間が短いし、一人ひとりのスキルもそれほど高くはないように見えたのですが、実は、みんなどんな姿勢からでもボールをコントロールできる。日本では、たとえばパスやキックをしたときのボールの回転がいかにきれいかで、技術があるかないかを測られるところがありますが、向こうの選手はそんなところにはこだわっていなかったです。
ボールをキャッチしたあとにどれだけ早くパスできるか、相手に当たったあとに体を伸ばしてパスをしたり、片手でバックパスできるかといった、実戦的なスキルにこだわる。
日本だと当たったときに片手でバックパスすると「テキトーなプレー」と言われることが多いのですが、試合でそういうプレーをやってミスが起きてもコーチが怒ることはない。選手も、隙があれば積極的にボールをつなごうとする。だから、成功すれば見事なラグビーになる。試合でも、そういうプレーが生きる場面がけっこうありました。形にとらわれずに、いろんなシチュエーションに対応できる考え方がすごく大事なことだと痛感しました。
試合も、サラセンズやニュー・カッスル・アフルコンズなどのプレミアシップ(イングランドのトップリーグ)のアカデミーやジュニア(2軍)チームを中心に、10試合やりました。
個人的な手応えとしては、アカデミーや2軍を相手にしたときはそこそこできたと思うのですが、10月19日にノーサンプトン・セインツの1軍半ぐらいのメンバーとやったときには0─50とボコボコにやられて、かなりショックを受けました。始動したばかりでチームとしての完成度が低かったことも原因なのですが、自分も突破することができなかったし、ラックでも激しくからまれて思うようにプレーできなかった。「まだまだだな」と思いました。
オックスフォードは、11月にオーストラリア代表とテストマッチを戦う前のイングランド代表の練習に招かれたのですが、そこに参加できたこともいい経験でした。
アタック&ディフェンスのような練習に参加し、スクラムの練習台になったのですが、ボールへのからみがすごく激しかった。一度つかんだボールは絶対に離さない、みたいな気持ちを感じました。個々の身体能力もすごくて、ジョニー・ウィルキンソン選手の視野の広さとパスの距離には驚かされました。オックスフォードが、ディフェンスのときに思いきり前に出てウィルキンソン選手にパスを放らせないようにしたのですが、彼はチラッと周りを見ただけで、瞬間的に一番外側のフリーの選手までパスを通した。普通だったら絶対に届かないような距離にドンピシャでした。
最後に、目標としていたブルーをとることができたので、応援していただいた職場のみなさんや会社のみなさんやチームにきちんと報告ができて、ホッとしました。
来年度は、向こうで学んだボールを活かすプレーや、体を張ったプレー、それから試合に対するスイッチの切り替えを、NECグリーンロケッツでも継続していきたいと思います。
取材・文:永田 洋光
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