■トップ4到達へ、神戸製鋼戦でグリーンロケッツがつかんだ自信と突きつけられた課題とは?

2019/07/22

 トップリーグカップ2019プール戦最終戦は、NECグリーンロケッツが今季目指す「トップ4」へ、現在の立ち位置がどの辺りにあるのかを学んだゲームだった。
 試合前の状況はこうだ。
 この日対戦する神戸製鋼コベルコスティーラーズが勝ち点18得失点差+113点でプールDの首位に立ち、2位に勝ち点14得失点差+81の近鉄ライナーズが続く。グリーンロケッツも勝ち点14の3位につけているが、得失点差は+15と上位2チームから下回る。
 プールD1位となって目標のトップ4に到達するために求められたのは、まず神戸製鋼に3トライ差以上をつけ、かつ相手に1ポイントも勝ち点を与えずに勝つことだ。その上で、20日に行なわれる近鉄対豊田自動織機シャトルズ戦で、近鉄の勝ち点が4以下にとどまれば、待望のトップ4に手が届く。
 いわば他力本願だが、それでも目標到達に可能性を残して最終戦を迎えることはできた。
 ところが、当日は試合開始前から雨が激しく降り続く最悪のコンディション。ボールを動かしてトライを量産するにはかなり厳しい状況だった。



 それでもグリーンロケッツは、立ち上がりから果敢にトライを奪いに行った。
 2分には、ハーフウェイライン付近のスクラムから右へ、NO8ジョージ・リサレ→SH中嶋大希とつなぐ「89(ハチキュウ)」のサインプレーを見せて、WTBロラギ・ヴィシニアを走らせる。
 ヴィシニアは得意の強さを発揮して大きくゲイン。すかさず連続攻撃に移る。
 しかし、フェイズを重ねたところでノックオンが生じてチャンスを活かせない。
 5分には、スクラムで神戸製鋼の反則を誘うと、ペナルティキックをタッチに蹴り出して、神戸製鋼陣22メートルライン付近のラインアウトに持ち込む。
 しかし、ここでもハンドリングエラーが出て、陣地を戻される。
 9分には、WTB釜池真道が、ラインアウトのデリバリー(配球)ミスを逆に利用して抜け出し、LOサナイラ・ワクァが大きくラインブレイク。しかし、サポートが薄く、ラックとなったところで神戸製鋼に押し返されてペナルティを取られた。
 浅野良太ヘッドコーチ(HC)が、この時間帯をこう振り返る。
「1つひとつのプレーを取り出せば、本当にいいプレーも出ていた。そういう部分では、選手たちは自信をつけたと思います。ただ、ヴィシニアやワクァには、トライを取りきるような強さを求めている。だから、チャンスに取りきって欲しかったという思いはあります。でも、そういう場面で、他の選手たちに、“ここはチャンス!”という意識が共有されていたのか。共有されていれば、もっとサポートが湧いてくるでしょう。今後は、そうした嗅覚を磨くことが必要になるでしょうね」
 中嶋は、立ち上がりの場面以外でも、密集脇の狭いスペースを駆け抜けてしばしばチャンスを作り出したが、サポートと呼吸が合わず、迷いもあって、ランを得点に結びつけられなかった。
 中嶋が言う。
「僕がもっと足が速ければ良かったのですが……全体的にまだアタックのときに“セイム・ページ”が見えていない。だから、上手くトライに結びつかなかったのだと思います」
 セイム・ページとは浅野HCがチームに授けた言葉。全員が同じ絵を見て動くことを意味している。この春から徹底されてきたが、トップ4進出をかけた大一番では、コンディションの悪さにも邪魔されて、なかなか上手く機能しなかった。



 対照的に、昨季の王者・神戸製鋼は、ワンチャンスを確実にものにした。
 13分に、自陣のラックからFB井関信介が、ボールをお手玉しながらも落とさずにコントロール。このノックオンしそうでしないハンドリングにグリーンロケッツの足が止まり、自陣から大きく走られて、連続攻撃を許す。そして、ミスをしそうな状況下でも決定的なミスを犯さずにボールをつなぎきり、WTB山下楽平がトライを奪って先制した。
 さらに17分には、自陣ゴール前でマイボールのスクラムを神戸製鋼に押し込まれてボールを奪われ、そこから山下にまたトライを奪われる。
 3トライ差をつけたいグリーンロケッツが、逆に2トライを先行されてしまった。
 それでもグリーンロケッツは“ファイティングポーズ”を崩さなかった。
 24分にはFB横山陽介が、相手のミスしたボールを拾ってカウンターアタック。釜池につないで大きく攻め込む。釜池から内側にボールを返すところで神戸製鋼にボールを奪われたが、その後のキックを、今度はCTBアマナキ・サヴィエティとヴィシニアでカウンターアタック。
 攻勢が実を結び、27分にはラインアウトからモールを押し込んで、HO佐藤耀がトライを挙げ、SO亀山宏大のコンバージョンで7点差に迫る。
 さらに31分には、FLブロディ・レバーが、神戸製鋼が持ち込んだボールをジャッカル。ふたたび反撃の狼煙を上げ、35分にモールからリサレに替わったハパクキ・リアヴァアが抜け出してトライを奪う。亀山のコンバージョンで同点に追いついた。
 前半終了間際には、「日本一のディフェンス」を合い言葉に磨きをかけた防御で、3分近くに及んだ神戸製鋼の猛攻を耐え抜き、14-14でハーフタイムを迎えた。



 後半の立ち上がりも、前半終盤のいい流れに乗ってグリーンロケッツが主導権を握る。
 5分には、スクラムで神戸製鋼から反則を誘い、ゴール前でのラインアウト勝負に持ち込む。
 ここから約4分間にわたってFWで攻め立て、ついに10分にスクラムを押し込んで、NO8の位置に入っていたレバーがトライを挙げた。
 亀山のコンバージョンで21-14。この試合で初めてグリーンロケッツがリードした。
 ところが――。
 続くリスタートのキックオフを神戸製鋼にキープされると、そのまま連続攻撃からトライを許して21-19と2点差に追い上げられる。
 さらに18分には、神戸製鋼が、ラインアウト後方にいたNO8ブロディー・マクカランが、前方の狭いスペースに走り込むとっておきのサインプレーでトライを奪って逆転。
 25分には、SOに入ったアンドリュー・エリスが、グリーンロケッツ防御が薄くなった後方のスペースに大きくボールを蹴り込んでチャンスを作り、スクラムからトライを奪って試合を決めた。
 一度逆転したにもかかわらず、そこから15分間で3連続トライを奪われたのだ。
 亀井亮依キャプテンは、この時間帯の攻防を、悔しさを押し殺してこう振り返る。
「後半の逆転した辺りまでは、自分たちのやりたいラグビーを本当に体現できました。でも、その直後から、ミスやペナルティに加えて、相手のセットプレーからのいいアタックもあって、流れを持って行かれた。チームとしても、僕自身としても、崩れかけたときにどうチームを立て直すのか、どういうコミュニケーションを取ればいいのか、いいレッスンになりました。今、僕たちは、敵陣にいるときはいいアタックができるのですが、自陣に攻め込まれると状況が厳しくなる。それがわかっていながら、ペナルティで自陣に入られた。試合中に熱くなるのはいいことですが、熱さのなかにも冷静さは保たないといけない――それを課題として痛感しました」



 浅野HCも、こう試合を総括する。
「前半終了直前にゴール前で守り切ったのは、ディフェンスの強さを見せられたし、確かに良かった。ただ、ではそこまで攻め込まれた起点は何だったのかを考えると、反則も含めたミスの連続でした。そういう事態を防ぐためにディシプリンを強調してきたのですが、こういう強度の高いゲームのなかでも、いかにボールを持ち続け、守り続けることができるか――選手たちは本当に良くやったと思いますが、その辺りがまだまだ課題です。練習中から意識して取り組むことが必要ですね」
 結局、グリーンロケッツは、終了直前に横山が意地のトライを返して26-47で試合を終えたが、1ポイントも勝ち点を上積みできず、近鉄が織機から5ポイント奪って勝ったために、プールD3位という結果に終わった。
 もちろん課題がいろいろ出たからこその3位ではあるが、浅野HCは手応えも感じている。
「プール戦の最後に、昨季の王者・神戸製鋼とトップ4をかけて対戦できた、というシナリオは素晴らしかった。このカップ戦ではまだ届きませんでしたが、来年1月から始まるトップリーグでは、本気で倒せるチームを作って、またチャレンジしたいと思います」
 亀井キャプテンは、「自分たちはこれをやるぞ、という軸を持って戦えたことがチームの成長だと思う」と話した上で、今後の課題をこう述べた。
「何が具体的な課題なのかは、正直に言ってまだ整理できていません。ただ、トップ4を目指すと言いながら、では具体的にトップ4のスタンダードはどのくらいのものなのか。スキルも含めて、僕らはまだトップ4に到達していないので、想像するしかありません。だから、どこまでハングリーにその差を詰めて行けるのか。僕も含めて、1人ひとりがどれだけ高みを目指しているか、そういうところが、これからの課題になると思います」
 浅野HCが就任してから111日目に迎えた神戸製鋼戦で、グリーンロケッツは手応えをつかみ、自信をつかみながら、同時に課題も突きつけられた。
 それらを、これから来年1月までの間にどう克服して、差を詰めるのか――6月22日から5週にわたって続いたトップリーグカップは、まさに現在地を認識するための格好の機会だったのである。






 スクラム最前線で背中を真っ直ぐに伸ばして相手の重圧に耐え、ひたすらボールを味方に供給するために大汗を流すのがフロントロー3人の役割。特に右PR(3番)は、首の両脇を相手の2番と1番に挟まれて、もっとも苦しいポジションだと言われている。
 そんなフロントロー、特にPRにとって、何よりも嬉しいのが、相手を一気に押し込んでのスクラムトライだ。神戸製鋼コベルコスティーラーズ戦では、記録上のトライスコアラーは、FLブロディ・レバーだが、当人だってこのトライがスクラムトライであることは十分理解している。
 しかし、そんなスクラムトライを記録しながら、試合後の土井貴弘の顔は曇っていた。
 前半17分に、神戸製鋼コベルコスティーラーズWTB山下楽平に奪われたトライの起点は、マイボールのスクラムを押し込まれ、大切なボールを奪われたこと。その原因が自分にあったと、痛切に反省していたからだった。
 土井が言う。
「スクラムを組む際に小さなルールの改正があって、HOとの関係が少し変わりました。それで最初の数本はどう組んでいいのか、ちょっとわからなかった。難しかったです。僕が気にし過ぎた部分もあって……それが原因でスクラムを押されてボールを奪われました」
 この試合、NECグリーンロケッツは、1番に前島利明、2番に佐藤耀と若手を起用。トップリーグカップを通じて若手メンバーとスクラムを組むとことが多かった。
 神戸製鋼戦で土井の迷いを吹っ切ったのは、若い佐藤からの「大丈夫ですよ」という、具体的な足の位置についてのアドバイスだった。若手・ベテランに関係なく、目の前のスクラムをどう組むか、スクラムのたびにコミュニケーションを取り合った結果、試合中に修正できたのである。
 後半10分の“スクラムトライ”は、そんなコミュニケーションの産物だった。
 昨季からチームには、グレッグ・フィーク・コーチが帯同してスクラムを指導してきた。
 フィーク・コーチはトップリーグカップを前に日本を離れたが、それもまたフロントローのコミュニケーションを深めるきっかけとなった。
「フィークがいなくなって弱くなったと言われたのでは意味がないと、みんなで意見を出し合いました。その過程で、佐藤や秋山哲平といった若いHOがどんどん意見を言うし、前島も成長してきた。まだ完璧ではないですが、今はいい感じで組めています。近鉄ライナーズ戦ではスクラムトライを奪われましたが、ああいうムチャクチャ悔しい経験もこれからの糧になる。練習で何本スクラムを組むよりも、ここで負けたら絶対にダメだというプレッシャーがかかった状況でスクラムを組む方が何よりの経験になりますからね。そういう意味では、いい5試合でした」
 8月22日に33歳となる11年目のベテランは、フロントロー最年長。
 その風貌といい、“スクラム番長”と呼びたくなる。
 しかし、素顔の土井は、アルコールよりも洋菓子を愛する“スイーツ系”PRだ。
 けれども、そんな土井が、そろそろ行なわれる「プロップ会」を楽しみにしている。
 お目当てはもちろんお酒ではない。スクラムについてとことん議論を深めることだ。何しろ土井は、同じポジションのライバル田中光にも、アドバイスを求めることをためらわない。
 それもこれも1つの確信があるからだ。
「僕もまだ成長できると思っていますからね(笑)」
 成長と成熟が合体した姿が、年明けのレギュラーシーズンで見られそうだ。
 
(取材・文:永田洋光)
 

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