グリーンロケッツ、「同じ絵」を共有できずに1トライに終わる!

info_category1.gif2018/09/10

 風がやんだのは前半18分を過ぎた辺りだった。
 それまで風上に陣取り、強い風にも後押しされてトヨタ自動車ヴェルブリッツ陣内でゲームを進めていたNECグリーンロケッツが、風が止まるのと時を同じくするように、攻勢から徐々に守勢に回り、自陣に押し込められる時間が増えていく。
 スコアボードは依然0-0のままだ。
 数分後、一時止まった風がふたたび吹き始めた。
 グリーンロケッツが風上にいることに変わりはない。
 けれども、勢いに乗って攻め始めたのは、風下のトヨタだった。



 立ち上がりの感触は良かった。
 試合開始のキックオフを深く蹴り込み、キャッチしたトヨタWTBヘンリー・ジェイミーを倒してボールを奪う。
 ゴールラインまで約20メートル。
 チャンスだ。
 グリーンロケッツはボールをキープしてフェイズを重ねる。
 しかし、12フェイズを数えたところでLO細田佳也が孤立。サポートが遅れてノット・リリース・ザ・ボールの反則を取られる。
 この間にトヨタは一切ペナルティを犯さずに守り切った。
 キャプテンのFL亀井亮依が言う。
「ゲームの出足は非常に意識していました。先週はウォーミングアップでミスが出てあまり良くなかったのですが、今日はいい状態で試合に入ることができた。立ち上がりからボールをキープすることもできました。けれども、どこでトライをとるのか、全員が同じ絵を見ていなかった」
 その後、一転してトヨタに自陣深くまで攻め込まれたが、グリーンロケッツもペナルティを犯さずにしっかりと守り、5分を過ぎたところで反則を誘ってピンチを脱出する。
 7分には、スクラムをいい形で押し込み、ボールを受けたSO森田洋介が、スピードが乗ったいいパスをCTBマリティノ・ネマニに通す。
 パスのコースで半分抜けかけたネマニは、そのままギアを上げてトヨタ防御を突破。
 右にはエースのWTB後藤輝也がつく。
 しかし、執拗な防御に体勢を崩されたネマニは片手でパスを放るが、後藤に収まらず、絶好のトライチャンスが潰えた。
 15分には、スクラムからCTBデレク・カーペンターを走らせ、サポートしたNO8ジョージ・リサレが抜け出す。そこからフェイズを重ねたが、5フェイズ目にトヨタSOライオネル・クロニエにパスをインターセプトされて大ピンチに。クロニエは、トヨタの切り札FBジオ・アプロンにパスを通すが、ネマニが戻って倒す。
 このとき、ネマニのタックルが腕をバインドしない危険なタックルではないかとTMO(テレビジョン・マッチ・オフィシャル)にかけられたが、検証の結果、腕をアプロンの体に回していたと判定されておとがめはなし。グリーンロケッツのスクラムでゲームが再開した。



 このスクラムからのアタックで、SH中嶋大希がラックサイドを抜けだし大きなチャンスを作る。
 しかし、森田がサポートについてラックに持ち込んだものの、パスを放った中嶋が、タックルしたアプロンに体をつかまれてラックに戻ることができず、ボールをトヨタSH茂野海人に奪われてふたたび自陣に戻された。
「あの辺りの時間帯で得点をとっていれば、試合の流れも違ったと思うのですが……」と、中嶋。「全般的にブレイクダウンに寄るのはトヨタの方が早かった。トライを取りきれないのが痛かったですね」と唇を噛んだ。
 冒頭に書いたように風が一瞬止まったのは、このときだ。
 そして、それが合図となったかのように、トヨタの時間帯が始まった。
 24分にはクロニエがペナルティキックを素早く仕掛けてアプロンを走らせる。
 変幻自在のステップを繰り出すアプロンをグリーンロケッツがようやく倒したときには、トヨタのアタックラインが完全に人数を余らせていた。そこでクロニエがキックパスを蹴り、25分、ヘンリーがボールをインゴールで押さえて先制。
 30分には、ラインアウトから展開され、HO彦坂圭克にトライを許し、コンバージョンも決められて0-12と引き離された。
 気になったのは、失点したことよりも、グリーンロケッツの反則がこの時間帯から増え始めたこと。ディフェンスで踏ん張り、タックルし続けてはいるが、ブレイクダウンでボールを奪い返すことができず、守りの時間が延々と続く。それがペナルティを生む要因になっているのだ。
 亀井が言う。
「ペナルティは、ラインオフサイドと密集での反則が多かったのですが、ブレイクダウンで相手に対して引いてしまう部分があった。それが反則につながったのだと思います」
 グリーンロケッツはその後のトヨタの猛攻を何とかしのぎ、PG失敗にも助けられて0-12で前半を終えたが、12点差で風下の後半を戦う苦しい状況に追い込まれた。



 後半。
 最初にトライチャンスを作ったのは、やはりトヨタだった。
 6分。
 連続攻撃からヘンリーがタッチライン沿いを快走する。
 グリーンロケッツにダメを押すトライが生まれるか――と思ったそのとき、ネマニが全速力で駆け戻り、ヘンリーに捨て身のタックル。そのままヘンリーをタッチラインに押し出した。グリーンロケッツは、ボールをすぐに拾ってフィールドに入れ、プレーを続行。陣地を大きく戻す。
 8分、今度はグリーンロケッツが反撃。
 スクラムからリサレが持ち出し、LOサナイラ・ワクァがサポート。ワクァがネマニにオフロードでパスを通そうとしたが、ノックオン。こちらもチャンスを活かせない。
 そして15分。
 トヨタはアプロンの快走からチャンスをつかみ、ヘンリーがトライを奪う。
 しかも、このときネマニがパスした後のアプロンを倒したとしてイエローカードを受けて10分間の一時的退場に。これが、スコア以上に試合の趨勢を決定づけた。
 人数的に劣勢に立たされたグリーンロケッツは、苦しい防御のなかで、途中出場のSH木村友憲が、ラックのなかで寝たままボールをプレーしたプロフェッショナルファウルでやはりシンビンとなり、1分間を13人で戦うハメに。



 トヨタはこのチャンスを見逃さずにスクラムから大きくボールを動かしてダメ押しのトライを追加。スコアは0-26と開いた。
 グリーンロケッツもここから反撃し、32分にはモールを押し込んで途中出場のLO権丈太郎がトライを返したが、反撃もここまで。
 終了直前にもPGを決められて、5-29で痛い2敗目を喫した。
「いいアタックをして、FWで行けそうなところでボールが出なかったり、もったいない場面が多かった。僕らはトライを取り切れていないけど、トヨタはしっかり取ってきた。それがこの点差だと思います。試合の入りは悪くなかったけど、トヨタが反則をしないで守ったからPGチャンスも得られなかった。結局、反則をしないという規律の問題が最後まで響きました」
 そう悔やむのは、もう1人のキャプテン森田。
 チームの誰もが「良かった」と振り返る立ち上がりの時間帯に、得点を挙げることができなかったところに、すべての歯車が狂い始めた要因があったのだ。
 来週15日は、福岡に飛んで宗像サニックスブルースと戦う(15時キックオフ)。
 ここで浮上のきっかけをつかまなければチーム目標の「ベスト4」が危うくなる。
 そんな危機に、果たしてボーナスポイントを獲得しての勝利を挙げることができるか――。
 すべては、亀井キャプテンの言うように、チーム全員がトライに至る「同じ絵」を共有できるかどうかにかかっている。




 トヨタ戦には8,153人の観客が秩父宮ラグビー場に詰めかけた。
 そのうち、バックスタンド中央から神宮球場寄りの半分を占めたのが、ピーター・ラッセル ヘッドコーチが「シティ・サポーター」と呼ぶ、グリーンロケッツ応援団だ。
 けれども、必死に声をからしての「NECコール」も空しく、スコアボードにはトヨタの得点だけが積み重ねられていく。
 そんなフラストレーションを、ほんの少しだけスカッと解消したのが、グリーンロケッツが後半34分に挙げたトライだった。
 ラインアウトから得意のモールに持ち込み、一塊となったFWがインゴールになだれ込んだ下で、ボールをしっかり抱えていたのが、今季で入社11年目、32歳となった権丈太郎。
 実は、このトライには伏線があった。
 その直前、同じようにゴール前のラインアウトからモールでのトライを狙ったグリーンロケッツは、上手くモールを形作ることができず、トヨタに守られた。そのプレーを修正してのトライだったのだ。
 権丈が言う。
「最初は用意していたスペシャルプレーでトライを取りに行ったのですが、取り切れなかった。だから、シンプルで一番確率の高いプレーに変えて、トライを取りに行きました。前節もモールでトライを取れなくて、それも敗因の1つに上がっていました。チームとしても、モールでトライを取れないと展開が厳しくなる。だから、トライに結びついて良かったです」
 ここ数シーズン、権丈は負傷にも苦しみ、なかなかコンスタントに試合に出られずにいた。
 トヨタ戦も背番号は23。リザーブとして後半13分にピッチに入った。
「リザーブとしては、みんなが疲れている頃に試合に入るので、まずキツいことをシンプルに率先してやることを意識しています。チームが連敗して苦しい状況ですが、そういう時こそ、自分たちベテランが先頭に立ってやらなきゃいけない。前の試合よりも、昨日の練習よりも、一歩ずつ積み重ねていけるように心がけています」
 2年近く試合に出られなかったケガをはじめ、体は満身創痍だが、気持ちには張りがある。同期のプレーヤーたちの活躍から刺激を受けているのだ。
「苦しい時期を乗り越えて、今はラグビーをできる幸せをシンプルに噛み締めています。本当にラグビーをやっているのが楽しい。ポジションも、試合に出られるのならばどこでもいい。幼稚園のときから始めたラグビー人生を、いい形で締めくくれるように頑張るだけです」
 次節は、郷里・福岡での宗像サニックスブルース戦だ。
「メンバーに入れるかどうかまだわかりませんが、やはり福岡に帰ると気持ちがすごく上がるんです」
 チームが白星を渇望している状況での福岡遠征に、権丈はひそかに活躍を期している。
(取材・文:永田洋光)
 

アーカイブ