第47回 日本ラグビーフットボール選手権大会 準決勝 対三洋電機 ~グリーンロケッツ、追撃も及ばず 三洋に敗れてシーズン終了~

info_category1.gif2010/02/22



 ミラクル10。
 リーグ戦10位から「リベンジ・ロード」をひた走り、それまで苦杯をなめたチームに“借り”を一つひとつ返しながら日本一へとたどり着く──そんな構想がチーム内で囁かれ始めたのは、昨年12月13日に三洋電機ワイルドナイツに5─22と敗れ、1勝9敗の土俵際に追いつめられた頃からだった。
 続く福岡サニックスブルース戦に敗れれば、トップリーグ自動降格まであり得る正念場。NECグリーンロケッツは目標を高く掲げ直すことで、何とかチームの潜在能力を引き出そうとした。
 それから9週間。
 グリーンロケッツは失速寸前の態勢を立て直し、20日に日本選手権準決勝で三洋と再戦するまでの7試合を6勝1分けと驚異的なペースで勝ち上がった。当初は夢物語にしか聞こえなかったミラクル10が現実的な日程に上ってきたのである。
 関門はあと2つ。
 リーグ戦を無敗で通過しながらプレーオフ決勝で東芝ブレイブルーパスに敗れて2位に終わった三洋を退ければ、決勝戦が残るのみ。物語は最終章に突入する。
 連戦の疲れに鞭打って秩父宮のピッチに現れた主人公達は、9週間前とは違う必勝の意気込みに溢れていた。




 三洋のキックオフで始まった試合、立ち上がりにグリーンロケッツがチャンスをつかみかけた。
 3分に、今シーズン背番号9を背負って重圧に苦しみながらも成長したSH西田創が三洋防御の背後に意表をついたキックを落とし、自らチェイスする。インゴールに転がったボールを三洋がわずかに早く押さえてドロップアウト。得点には結びつかなかったが、勝ちたいという気持ちが表れたプレーだった。
 三洋も反撃する。
 グリーンロケッツをじりじりと後退させながらボールを連続支配。ゴールラインへと迫る。
 このピンチに、ゲーム・キャプテンのNO.8ニリ・ラトゥがラックで相手ボールを奪い取ってターンオーバー。ピンチを脱したかに見えた。
 しかし、ラックの周囲でのプレーで反則をとられてPGを決められる。
 グリーンロケッツも、2分後にPGを返して3─3。
 負ければ終わりの試合に相応しい緊張感が、場内に漂い始める。
 24分に三洋が、26分にはグリーンロケッツが、それぞれPGを決めて6─6。そのまま、スコアボードは動かなくなった。



 前半のラスト・プレー。
 三洋は、グリーンロケッツのゴール前で得たスクラムからサインプレーを仕掛けて、WTB北川智規がトライを奪い均衡を破った。ゴールは決まらずスコアは6─11。
 1回戦のサントリーサンゴリアス戦では、同じ状況でトライを許さなかったことが引き分け→抽選での2回戦進出につながったが、この試合では同じ展開に持ち込めなかった。
 得点を先行させて逃げる三洋。懸命に追うグリーンロケッツ。
 そんな図式は後半も続く。
 10分にグリーンロケッツがSO松尾健のこの試合3本目のPGで2点差に迫ると、直後の12分には、三洋がグリーンロケッツのカウンター・アタックをターンオーバーして逆にトライを奪って引き離す。ゴールも決められてスコアは9─18。
 これ以上リードされればミラクルが夢に終わるグリーンロケッツは、得意の防御で三洋の猛攻をしのぎながらチャンスをうかがう。



 18分。チャンスがやってきた。
 ダメ押しを狙って攻め続けた三洋の連続攻撃を守りきり、グリーンロケッツがペナルティキックを得たのだ。
 これでピンチを脱したグリーンロケッツは、20分過ぎから三洋陣内に入って攻勢に出る。
 途中出場のCTB釜池真道が、素晴らしいスピードで三洋防御を突破。この試合初めての完全なラインブレイクで敵陣に攻め込み、23分にはモールを押してゴールラインに迫る。
 三洋は、たまらずにモールを崩す反則。しかも、反則の繰り返しでPR相馬朋和がイエローカードをもらってFWが7人に減った。人数の優位を活かすべく、グリーンロケッツはPGを狙わずにタッチへボールを蹴り出して7点を取りに行く。
 大切な大切なラインアウトを確保したグリーンロケッツはふたたびモールを組み、じわりじわりとゴールに迫る。
 がっちりと押し返す三洋。
 緑の塊と赤の塊がぶつかり合って90度近く回転したモールはたまらずに分裂し、そこからグリーンの2番と4番が抜け出した。HO臼井陽亮とLO浅野良太だ。二人はそのままもつれるようにインゴールに倒れ込み、浅野がボールを両手に抱えてグラウンディングした。
 待望のトライだ!



 角度のあるゴールキックを松尾が丁寧に蹴り込んでスコアは16─18。ついにワンチャンスで逆転勝利をつかめる距離に三洋をとらえたのだ。
 勢いの出たグリーンロケッツは続くキックオフから、ラックで三洋が持ち込んだボールをターンオーバー。三洋陣内に居座って攻撃を続ける。
 31分。やはりモールを組んだ緑の壁から背番号8が抜け出した。
 リベンジ・ロードを支え続けたニリがミラクルを信じて走る。
 必死で戻った三洋防御に捕まったニリは、後続を信じて後方にボールを浮かす。
 ふわりと浮かんだボールにFLセミシ・サウカワが走り込む。捕ればそのままトライだ。
 しかし──ボールはわずかに前方に落ちてセミシの手を弾いてノックオン。
 32分には、松尾が逆転の望みを託したDGを狙うが、ボールはポストを逸れた。
 そして35分、三洋は逆にグリーンロケッツのミスにつけ込んでトライを奪い、グリーンロケッツは万事窮した。
 16─25。
 どう転んでもおかしくなかったスコアは、リーグ戦1位通過チームに軍配が上がった。だが、やることなすことすべてが裏目に出たシーズン序盤の逆境にもめげず、一歩一歩階段を上り直した10位通過のチームは、やるべきことをやり尽くした充実感に、ある種のすがすがしささえ漂わせて、サポーターの声援に応えた。
 ミラクル10こそならなかったが、厳しいハードルを越え続けた今シーズン。
 それは、ミラクル7を達成した02─03年度同様、長く語り継がれるシーズンとなったのである。



 

 
~今シーズンを振り返って~
 
岡村要ヘッドコーチ

「就任1年目で、天国と地獄の両方を味わいました。今思えば、どん底に落ちたからこそできたこともあったと思います。自分を信じ、仲間を信じ、チーム一丸となって戦うことの大切さを改めて感じさせられた貴重なシーズンになりました」

熊谷皇紀主将
「リーグ戦10位で日本選手権ベスト4という結果は目標としたものではありませんが、今シーズンは絶望的な状況でも希望を捨てることなくチーム一丸となって頑張ることができた。そういう意味では、数字以上の価値があったシーズンでした。
 状況が良くないときには、みんな不安に感じていたと思うけど、それを抑えてチームのために頑張る姿勢を見せてくれた。本当に気持ちのいい選手が多いと思うし、だからこそ逆境から這い上がれたのだと思います」
 




 

 今日の試合は残念でした。厳しい防御で三洋にプレッシャーをかけていながら、自分たちのミスでそのプレッシャーを逃してしまった。敗因は自分たちのミスに尽きます。具体的には、後半にニリとセミシの間で上手くパスがつながらずにノックオンになった場面。NECが逆転するには、あれが唯一のチャンスでした。
 今シーズンは、とても厳しいスタートを切ったけど、12月からみんなものすごく力を発揮してくれた。チームのシステムを信じて一所懸命努力し続けた結果でしょう。逆境のなかでも努力し続けることは、そうそう簡単にできることではないし、こういうチームは少ないでしょう。だから、試合に負けたことは残念ですが、僕はこのチームを誇りに思っています。
 今シーズンは、若手が伸びましたね。
 廣澤(拓=LO)、土井(貴弘=PR)といった選手たちは、トップリーグを戦いながら力をつけていったし、ちょっと違うけど瀬崎(隼人=WTB)も成長しました。将来が楽しみな選手たちです。
 それから権丈(太郎=FL)。彼は将来的に、日本のトップ選手になる素質を秘めています。今シーズンの後半は、本当に素晴らしい活躍をしました。
 そういう意味では、今シーズンは「チェンジ」のシーズンだったのかもしれません。
 NECは、ゲームのストラクチャーがしっかりしているし、若手もこれからどんどん伸びてくる。あとはゲームの構造を理解して、シンプルなことを正確にやり続けるスキルを身につけること。こうすれば、チームはもっと強くなる。
 来シーズンもそうやって新しいチャレンジを続けるつもりです。
 だから、また応援してくださいね。そして、1年間、応援ありがとうございました!



取材・文:永田 洋光