第47回 日本ラグビーフットボール選手権大会 第1回戦 対サントリー ~グリーンロケッツ、執念でサントリー上回り、日本選手権2回戦進出!~
2010/02/08
満身創痍だった。
ゲーム・キャプテンとして獅子奮迅の働きをしたニリ・ラトゥが右足を引きずり始めたのは、後半30分過ぎ。SO松尾健は首の痛みに顔をしかめ、パスもキックもままならない状況に追い込まれた。
10─10のタイスコア。
NECグリーンロケッツは終盤の時間帯も自陣に釘付けにされ、ゴールラインを背負ってプレーし続けている。サントリーの波状攻撃を無得点に抑えることで辛うじて気力と集中力を振り絞り、目前の相手にタックルすることだけを考えて、なんとかグラウンドに立っている状態だった。
サントリーは、そんなグリーンロケッツを突き崩そうと3回続けてDGを試みた。
37分、途中出場のSOトゥシ・ピシが10メートル・ライン付近から。
39分、CTBライアン・ニコラスが22メートル・ライン中央から。
そして40分には、ピシが右中間から必勝の念を込めてボールを蹴る。
しかし、いずれもボールはHポールを通過することなく、80分間の死闘はタイスコアのまま決着した
ダウン寸前まで何度も追いつめられながら持ち応えたグリーンロケッツは、力を出し切った手応えに堂々と顔を上げて円陣を組み、サポートの声援に応える。
攻め続けたサントリーは、決定打を放てなかった自らを責めるように茫然自失の状態でグラウンドに立ち尽くした。
トライ数、ゴール数が同数のため大会規定によって抽選が行われ、その結果で2回戦に進出するチームが決定するが、抽選が行われる前から明と暗ははっきりと分かれていたのである。
8千人を超える観客のざわめきが収まらないうちに予備抽選の順番を決めるジャンケンが行われ、ニリ・ラトゥがサントリーの佐々木隆道主将に勝って、先に封筒を引く。
封筒には「先」と書かれていて、ニリがそのまま本抽選の封筒を手に取った。
「2回戦への出場権あり」
漢字が読めなかったニリは一瞬ぽかんとしたが、周りの反応にすぐに事態を飲み込んだ。
タッチラインに並んで抽選を見守っていたチームメイトに目を向ける。
「ウォーっ!」
事態を飲み込んだチームメイトが歓声を上げてニリのもとに走り寄る。
勝利の女神は、80分間の明暗そのままに、素直に次へと進むチームを指名したのだった。
前半の40分間に試合のすべては凝縮されていた。
昨年11月29日の第8節には15─41、つい一週間前の1月30日にも練習試合で7─68と、グリーンロケッツはサントリーにいいようにやられていた。
自然にゲームプランは、徹底したディフェンスでサントリーのアタッキング・ラグビーを食い止め、ロースコアの接戦に持ち込む方向に絞られる。そのためには、組織ディフェンスを崩さず、しかも1対1のタックルでもミスをしないことが求められる。グリーンロケッツは、試合開始直後からそれを遂行した。
1分、サントリーがフェアキャッチのフリーキックから速攻を仕掛けて連続攻撃。グリーンロケッツは緑の壁となって立ちはだかり、サントリーのミスを誘う。
8分にはニコラスにPGを決められて先制されたが、トライに至る決定的なチャンスは作らせない。
ボール支配率でも地域獲得率でも圧倒されながら耐えていたグリーンロケッツは、10分過ぎに反撃に出た。
起点はHO臼井陽亮が、サントリーの蹴り上げたボールを相手と競りながら見事に捕球したこと。そのラックで反則を誘って、相手陣でのラインアウトに持ち込んだ。
得意のモールを組んだグリーンロケッツは、ボールを左へ展開。SO松尾が、ボールを持ったままほんの一瞬動きを止めて“間”を作り、その間に前に出たサントリー防御の裏を取って抜け出した。そこにCTBブライス・ロビンスが顔を出してボールをもらい、そのままインゴールへ。
わずかなチャンスに集中力を発揮して生まれた先制トライだった(松尾ゴール成功)。
17分には松尾がDGを追加して3─10。
しかし、攻勢はここまでだった。
22分、パスを受ける前に動いてスペースを作り出したニコラスがグリーンロケッツの防御を突破。これをロビンスが渾身のタックルで食い止める。
26分、サントリーの波状攻撃に、FLセミシ・サウカワが危険なタックルの反則をとられてシンビン。10分間の戦線離脱を余儀なくされる。
モールにおける攻守の核を欠いたグリーンロケッツに、サントリーは容赦なく襲いかかった。
PGを狙わずにラインアウトからモールを押し込み、連続攻撃へ。グリーンロケッツはラックでターンオーバーして辛うじてタッチに逃れたが、続くラインアウトから10回以上もラック、モールを連続支配されてゴール前へ。ここでも得意のブレイクダウンでターンオーバーしたが、タッチを狙ったキックがラインを割らずにまたもや連続攻撃を食らう。
このピンチに、ニリが厳しいタックルを見舞ってサントリーのミスを誘う。
だが、セミシのシンビンが解けて15人に戻ってからもピンチは続いた。
前半39分33秒。
試合を実質的に決めた攻防が、サントリーのスクラムから始まった。
ここを守り切れば10─3でハーフタイム。トライを奪われれば、かなりの確率でタイスコアのままハーフタイムを迎えることになる。
サントリーはラックを2つ制して、SHジョージ・グレーガンからのパスを受けたSO野村直矢が、この試合で初めてインゴールに飛び込んだ。
が、戸田京介レフェリーの判定は野村のグラウディングを認めずにノートライ。
グリーンロケッツは40分間をノートライに抑えた手応えを胸にロッカーへと引き上げ、サントリーはトライを取りきれなかった悔しさを残してロッカーに消えた。
ここでもしトライが生まれていれば、後半のサントリーは無理に攻めずにPGでスコアを重ね、グリーンロケッツの焦りを引き出して、いつものようなゲームに持ち込めたかもしれない。それを、グリーンロケッツの執念が食い止めた。
果たして後半、サントリーは時間が経過するにつれて、組織ではなく個々に突破を図るようになり、次々にグリーンロケッツのタックルを食らって膝をついた。
この時点で試合の流れが決まったのである。
攻守に活躍した松尾が言った。
「中途半端にボールを持ってアタックしていたら、もっと体力を消耗したかもしれない。ディフェンスに集中できた分、最後まで精神的に切れなかった」
つまり、サントリーが攻めれば攻めるほど、グリーンロケッツは自らが一番こだわりを持ち取組んできたディフェンスのストラクチャーを思い起こし、集中力が切れる寸前で踏みとどまったのである。
岡村要ヘッドコーチが言う。
「いろいろな課題や勝負のあやはあった。 ただ最後はどちらの自信が相手を上回るか、その勝負がこの試合だったと思います」
ニリも記者会見で同様のことを言った。
「信念とガッツの勝利。勝ちたい気持ちが強いチームが勝ったということだ」
そして、初体験の抽選の印象を聞かれて、こう笑った。
「シーズン前半は苦しんだけれど、最近は幸運な流れに変わったように感じていた。だから、抽選の前から幸運を信じていたよ」
リーグ戦の総当たり(ラウンド・ロビン)が終わった段階で10位だったグリーンロケッツは、その後に行われたプレーオフで3連勝。次週14日に秩父宮で行われる帝京大学戦に勝てば、ついに4強入りを果たすことになる。
しかし──。
グリーンロケッツの誰もが触れるのは昨シーズンの苦い思い。そう、同じ日本選手権の1回戦で神戸製鋼コベルコスティーラーズに劇的な勝利を収めながら、続く2回戦でリコーブラックラムズに敗れて呆然とシーズンを終えた、あの試合の教訓だ。
トップリーグの稲垣純一COOは、顔をほころばせて引き上げる選手たちを見ながら、こんなジョークを飛ばした。
「これで次の試合に負けたら、入れ替え戦に出てもらうぞ(笑)」
トップリーグ代表として学生王者に敗れるような失態は断じて許さない、ということだ。
それを受けて、岡村ヘッドコーチがこう決意を語った。
「もちろん、これまで戦ったクボタの分も、今日のサントリーの分も、我々は背負って戦うことになる。去年と同じ轍は踏みません」
次週の戦いぶりに、今季のグリーンロケッツの真価が問われることになる。
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ミラクル! その言葉しかありません。 |
タッチラインから見ていて、みんながギリギリの状態で戦っていることがわかりました。でも、極限に近い状況だったからこそ、精神的に切れなかった。辛くて厳しい状況に追い込まれても、誰かが声をかけて、みんながそれに応える。そうやって声が出ていたから、安心して見ていられました。 1人のプレーヤーとしては自分が試合に出たい気持ちが強いし、出られる状態まで(ケガから)回復しましたが、キャプテンとしては1秒でもこのチームで長く試合をやらせたい。本当に苦しいシーズンでしたけど、今はこのチームで1試合でも多く戦いたいと強く思います。 |
取材・文:永田 洋光







